ASM-JSC Joint Symposium
司会のことば
1 順天堂大学 医学部 細菌学教室、 2 慶應義塾大学 薬学部・大学院 薬学研究科
平松 啓一1八木澤 守正2
アメリカ微生物学会(ASM)は,現在,約43,000人の会員を擁しているが,その1/3は国外メンバーであることから,国際的な学術活動に積極的に取り組んでいる。2006年1月にASM会長のStanley Maloy教授が第17回日本臨床微生物学会総会(岡田淳会長;横浜)の招聘講演で来日した際に,日本化学療法学会及び日本感染症学会の理事長を交えて日米間の将来の協力についての協議が行われ,機会があれば合同で学術集会を開催することとした。 今般,第57回日本化学療法学会総会長の山口惠三教授のご好意によりASM-JSC合同シンポジウムが開催されることとなり,ASMでは演者として以下の3名の著名な研究者を派遣することを決定した。 Bonomo博士は優れた感染症医であると共に,β-ラクタマーゼの有機化学的・遺伝生化学的な研究で著名であり,2005年よりICAACのプログラム委員を勤めている。今回は,最近の研究テーマである多剤耐性Acinetobacter baumannii の耐性機序を中心に,緑膿菌や肺炎桿菌の多剤耐性に関して最近の知見を解説し,多剤耐性菌による感染症への対応について論じると伝えてきている。 Greenberg教授は,1980年代半ばからVibrio fischeriの蛍光のautoinducerであるacyl-homoserine lactoneに関わる遺伝子luxIの発現について一連の研究成果を報告している。ASMのシニア会員が構成するAmerican Academy of Microbiology (AAM)のBoard of Governor メンバーに選任されており,Cell-Cell CommunicationやMicrobial Community関連の会議の主催などの活躍を通じて,国際的な学術交流に貢献している。今回は,“sociomicrobiology” と題して,緑膿菌のビルレンスにおけるquorum-sensingの関与と,緑膿菌感染症に対するanti-quorum-sensing療法の可能性を論じると共に,細菌が集団として示す特異的な性状の一例として緑膿菌のバイオフィルムを取り上げ,その対応は新たな治療法の開発に繋がることを論じると伝えてきている。 Calva教授は,1980年代半ばよりチフス菌の外膜タンパクOmpCの構造と機能及び遺伝子発現などの広範な研究を行ってきており,最近ではチフス菌のビルレンスに関わる複数の遺伝子の発現を制御する因子LeuOの働きなどを報告している。国際的に活発な学術活動を続けてきており,AAMのInternational Member Committeeの委員長を勤めている。今回は,ヒトおよび家畜由来の食物から分離されたサルモネラ菌の薬剤耐性に関して論じるとのことであり,国内でも鶏肉のサルモネラ菌汚染が問題となっているので,興味深い論議が行われることと期待される。 ASMから派遣される上記の3名の著名な研究者の講演に対応して,JSCからは今回のシンポジウムのModeratorを勤める平松 啓一が “MRSAの逆襲” と題して,黄色ブドウ球菌が抗生物質の攻撃から身を守るための対応策 “regulator mutations” による進化について,最近得られたゲノム情報に基づいて論じる。 4題の演題は講演要旨に記述されているように,何れも最新のデータに基づいて今日の化学療法における問題点を解析し,その対応策を思考するものであり,会員の方々からの活発な論議を導き出すものであると期待される。